守らないと、マジでやばいことになるイギリス
ときどき日本の飲食店が時短要請に従わないというニュースがあがってきます。
ひどいのだと、営業中に34人の警察が突入して数名の従業員を現行犯逮捕したというのもあって、穏やかじゃないですね。
時短要請に従わない飲食店を、まるで麻薬密売組織に突入するみたいにして逮捕している。
一周回って税金の無駄遣いって気がします。
イギリスではこのような逮捕劇は一切ありません。
現在、イギリスの飲食店ほぼ全店舗、政府から時短要請が出たら、確実に従います。
その理由と、イギリス政府がどのような対策をとったか、それに対して飲食店やお客さんはどのように反応したか、イギリスで飲食店を経営する現場から、詳しくお知らせできればと思います。
ブレないコロナ情報をイギリス国民みんなでシェア
2020年の10月、イギリスも初の時短要請が発令されました。
夜10時以降は営業しないでください、というものでした。
自治体がそれぞれ決めるものではなく、政府からの発表です。
イギリス政府はイギリス全土を新型コロナの状況にあわせてレベル1-3に分け、レベル1の程度の軽い地方は時短しなくていいよ、2の地方は10時までね、レベル3の地域は悪いけど営業自体停止ね、という感じで決めます。
新しい取り決めが出ると、イギリスの首相のボリスジョンソン氏がホワイトハウス的なところから、現在のイギリス全土のコロナ状況と合わせて、生中継で国民に発表します。
厚生労働大臣的な人や、医療機関の専門家などがボリス首相の左右に立ち、コロナ患者の現在の状況、病院の切迫ぐあい、国民がどのように行動するべきかなど、グラフや図などをふんだんにつかい、お馬鹿さんにもわかるようにきちんと説明します。
なのでまず、言ってることがテレビ局によってバラバラとか、要点が違うとかがないし、もし誰かが不用意に「ワクチンは危険!」などと根拠のないデマを流し、国民を怯えさせようものなら、その人はテロリストとみなされて逮捕されるに違いありません。
あと、イギリスの国会議員は、スピーチの訓練を受けていると思うのですが、ボソボソしゃべって何を言っているかわからないということがまずありません。
区切り方、間の取り方、発声の仕方などがスゴイ。
例えばこの方は↓日本でいえば「厚生労働大臣」にあたるマシュー・ハンコックさん、42歳。厚生労働大臣ながら、3年前まで30代だった方です。
インドで見つかった新型コロナウイルスの変異株と発生地域、ワクチン接種との関連性について、国民に向けて情報提供しているところです。ニュースキャスターじゃないですから。政治家です。
ライブ中継はイギリスのテレビ放送局のBBC、スカイニュース、NTVなど主要なところはもちろん、YouTubeでも同時中継され、生中継でニュースキャスターが首相に国民の立場から質問し、首相やそのまわりの官僚、医療の専門家などがキャスターの質問に答えていき、国民の多くがそのニュースに注目します。
たとえばニュースキャスターが、
「首相、危険レベルの違う地域への外出を今夜から禁ずるとのことですが、もう荷物をまとめてしまって今から出発予定だったという場合にはどうすればいいのでしょうか?」
「その場合は、大変心苦しいですが、まとめた荷物を元に戻して、出発をやめてください」
とかですね。これは2020年の12月、ロンドンが前代未聞のレベル4まで上がってしまい「超・緊急事態宣言」が出た際、キャスターの質問にボリス首相が答えたものです。
ライブのあとには録画で繰り返し放送されます。YouTubeにも1分の短縮版、5分の短縮版、20分バージョン、ノーカットの2時間フルバージョンと様々な種類に編集され、YouTubeのトップページにボリス首相の顔がずらっと並ぶので、大きなニュースがあった場合はすぐにわかります。
Twitterでも、国民に知らせるべき大きなニュースがある場合には「政府の発表だョ!」の広告が一番上に表示されます。大事なニュースを確実に知らせるため、イギリスはTwitterの広告費にお金をかけているんだと思います。
私は飲食店の営業中はライブ中継が見れないことが多いですが、従業員もお客さんもニュースを見て内容を知るので、発表されると誰かがすぐ教えてくれます。
「政府の新しい発表があったけど、来週の10月4日から、営業は22時までになるらしいよ」
とかですね。
そうすると、仕事が終わってから政府のサイトに行ったり、YouTubeの録画を見たりして詳細を調べます。
イギリス政府のサイトにも詳細が載ります。
なので、飲食店が今どの状況でどのように営業しなければならないか、正確な情報がリアルタイムでイギリス国民全体に行き渡っているイメージがあります。
日本に比べると、イギリス全土はすごい一体感!
このように誰もが政府の通達を守る中、もし違反をするお店があれば、すぐにお店は周りからつまはじきにされ、政府に密告されるなどの危険があります。
一方、日本は正しい情報と間違った情報が入り混じり、いろんな人がいろんなことを言うので、国民が何を信じていいかもわからず、大事な時にバラバラになってしまっている感があります。
日本では「忖度」とか「上級国民」という言葉が流行っていますが、一部の人が自分が多く得する目的で「その他の大勢の人」に知らせる情報をねじ曲げたり隠したりすることで、結果的に国全体が不利益をこうむる状態を作っている気がします。
そういうやり方は時代遅れ。
遅かれ早かれ、いずれは通らなくなるでしょう。
でもその時期をいかに早め、自分が生きているうちフェアな社会にするかどうかは、私たち一般市民の知識や行動にかかっているのではないかと思います。
区役所から届いた「高額罰金のお知らせ」
2020年秋、イギリス初の時短営業が発表になり、営業は22時までというお知らせを最初に聞いた時に思ったのは、「どのくらい厳しいんだろう?」ということでした。
ちょっとぐらいだったら22時を過ぎて営業しても怒られないのか、それとも厳しめにやるのか。
イギリスは電車のダイヤもみだれまくりで、列車が遅れても誰も気にしないし、5分までの遅れは「定刻」とみなすような国です。
なので最初は、そんなに厳しくできるわけがないとたかをくくっていました。
ところが政府の発表から数日経ったとき、私のレストランに区役所から手紙が届きました。内容は、
時短要請に従わなければ£100,000(10万ポンド=当時のレートで約150万円)の罰金が課されます、22時がラストオーダーではありません、22時にはお客さんが店内にいないようにしてください。
という内容でした。同じ内容のものがお店のメールにも届きました。
同じ内容を封書とメール、ダブルで送ってくる気合の入れようです。
それを読んで、あ、時短要請は厳しくやるんだな、と思いました。
ただ、この高額罰金はおどし的なものなのか、マジでこんな高い罰金をとるつもりなのか、この時点ではそのへんがちょっとわからなかったです。
でもとりあえず、お店のスタッフには「ラストオーダーは21時15分にして、22時までにお客さんには帰ってもらってね」と伝えました。
時短なのにお客さんがごねて帰らないケース
とは言っても、最初の頃は、22時過ぎまで居座ろうとするお客さんも何人かいました。
お店側もそうですが、お客さんにとっても初めてのことなので、お酒の酔いが回ったお客さんなどはもはや制御不能で、何度言ってもなかなか帰ってくれないこともあります。
22時ぴったりになり、私がキッチンから「お客さん全員帰った?」とスタッフに聞くと、「まだ残っています」と返ってくる。
とくに男性の方は、帰ってもらうようにお願いすると、男の本能と言わんばかりに闘争心が生まれ、戦いを挑んでくるケースが多々あります。
「すみません、行政からの命令なんです」とお願いしても、
「タクシーを呼んでいて、あと2-3分で来るんだよ。この雨の中、傘もないのにお客さんを外に追い出すのかい?」
のように、断りづらいことを言われたりする。
そうは言っても、本当にこのお客さんがあと2-3分で帰るのか、実際にタクシーを呼んだのもわからないし、証拠出せって言うわけにもいかないし、罰金150万円のことも頭にちらつきます。
困るなあ、と思いながら、でもまあ、このぐらいじゃきっと罰金にはならないだろうと、最初の2週間ぐらいはごねるお客さんにはあまり厳しくせず、穏やかに対応していました。
時短を4分過ぎたお店の商店街、全店舗閉鎖
そんな中、お店の従業員からすごい話が入ってきました。
彼女が住んでいるロンドン南部のエレファント&キャッスルという街のアーケード商店街が、全店舗営業停止になっていたというのです。
そこにあった区役所の張り紙には、商店街の中の1店舗が時短営業を4分過ぎて営業したため、全店舗営業停止にします、と書いてあったらしい。
見せしめなのかなんなのか、こんな恐ろしい話は瞬く間に口コミで広がります。
時短営業を数分過ぎたために営業停止になったお店はここだけでなく、どこのお店では7分過ぎて営業停止になったとか、あそこのケバブ屋さんは22時10分までやって停止されたのだとか、新聞に載ったり、クチコミで入ってきたりしたのが数件ありました。
そんなのおかしいだろう、いくらなんでも厳しすぎるだろう、という反発意見ももちろんありましたが、そういうことを議論しているのは飲食店に関係のない人たちで、当事者の私たちとしては、もはや何が正しいとか誰が悪いとか言ってる場合ではありません。
「何がなんでも10時までに全員帰ってもらえ!!!」
と、当然なります。
万が一、私のレストランのお客さんが数分居残ったせいで、うちの商店街の全店舗が営業停止になってしまったら、私はもうこの街で生きていくことはできないので、死んでお詫びしなければなりません。
イギリス政府の殺人的な本気度に、背筋が凍る思いでした。
警察の取り調べのような自治体のガサ入れ
そして時短要請が始まり、夜の22時が迫ってくると、区役所の職員がレストランの外をうろうろするようになりました。
例えば21時45分ごろに、まだお客さんがいるのに、警備服を来たような人たち3人がずんずんとお店に入ってきて、首から下げた「社員証」を、まるで警察手帳でも突きつけるようにバシッと差し出し、「私たちは区役所よ!責任者を出して!」といいます。
そうして私が呼ばれ、たくさんのお客さん達が注目する中、ちゃんと時短要請に従っているか、顧客情報の記録をとっているか、テーブルの間隔を1メートル以上あけているかなど聞かれ、彼らは私が答えた内容と電話番号、フルネーム、現在時刻などを「回覧板」のようなものにボールペンで記入すると、「証拠品」としてお店の名刺やパンフレットをもらい、きびすを返して帰って行きます。
というような感じで、イギリス政府は時短要請をマジで気合い入れてやっていたので、私たち飲食店は、行政様にそそうのないよう、いかにしてお客さんを22時までに完全に外に出すか、ということを考えるようになりました。
そこで私たちが考えた案とは、
- もしお客さんが帰らなかった場合、罰金150万の手紙を見せて、何かあったらあなたがこれを代わりに払ってくれるのか、と迫る、とか
- 22時になったらお客さんがいても電気を全部消して店を真っ暗にする、とか、
もはやサービス業がお客さんに対して絶対やってはいけない部類の、たぶん反社の人たちとかがやっているような方法です。
ただ、このような策を練って備えてはいたのですが、時短要請開始から2週間も経つ頃には、お客さんの方の理解も深まり、ごねて居座るお客さんはゼロになりました。
21時57分にもなると、お客さんの方から急いで席を立って、逃げるように店を出て行きます。
こうして私たちは、罰金の手紙を水戸黄門のように差し出したり、電気を消して店を真っ暗にするというような強制措置をとることはなく、円滑に時短要請を守り続けることができました。
時短もするけど、助成金もちゃんと出る
あと、忘れてならないのは、イギリスの時短要請は必ず守らなければならなかったけど、イギリス政府は助成金もちゃんと出してくれるということです。
申請方法もカンタン&シンプル。
助成金の金額はお店の規模によって3段階にわかれ、金額は一律なので、その金額が十分か十分でないかは、お店によります。
私のお店のように、規模も大きくなく、ロンドン中心部ではないので家賃も安く、もともとそんなに儲かっていたわけではない、というお店には、十分というか、ちょうどいい助成金の額だと思います。
従業員のお給料は、お休みしている間も政府が8割まで払ってくれますし、税金もかなり免除になっています。
これが、家賃の高いロンドン中心部にあったり、もともとが利益をガンガン出していたりするお店だと、大赤字になるので、お店をたたむ、という選択肢になってしまうのでしょう。
ロンドンの都会にあったり、大型だったり、キレイな、素敵な飲食店はたくさん閉店してしまい、片隅にあるこじんまりした個人飲食店の多くは潰れずにほそぼそと続けていけている、というのが私の印象です。
イギリス政府、今はインドの変異株をいかに広げないかに注力
イギリスは、ワクチン接種も含め、世界に先駆けてコロナをやっつけたかっこいい国です。
2021日5月18日現在、イギリス政府が注力しているのは、インドの変異株をいかに広めないかということ。
イギリスの対策としては、ワクチン接種の一度目を受けていない人は、年齢にかかわらずすぐに一度目を受けるように、1度目を摂取済みの人は、当初12週間後に2度目という話でしたが、4週間短くなり、8週間後に受けられるように変更になりました。
そして私は毎日、ワールドメーターのグラフに異変がないか、朝起きたらまずチェック。
イギリスにインドの変異種が入ってきてから数日たちますが、今のところグラフに変化がないので、安心しています。
インドの変異種に今のワクチンが効くのかどうかはまだ未知だとイギリス政府は発表していますが、今のところまったく増えていないから、ワクチンがそこそこ効いているのかも。
これが今日の↓イギリスのグラフですが、新型コロナウイルスによる死者数はまったく増えていません。ここにはグラフを出していませんが、感染者数もまったく増えていません。
ちなみに日本はこんな感じ。
グラフの左側の人数の通り、もともとの母体がすごく少ないのですが、日本では現在、死者数がほぼ過去最高まで上がっていて、最近ではイギリスの5ー6倍になっています。
イギリスがだいたい1日10ー20名なのに対し、日本は平均120人前後が新型コロナウイルスで毎日亡くなっています。
ちなみにイギリスの死者数のピークは2021年の一月で、最高で1日1700人ほどの死者が出ていたので、それをよくまあ、こんな短期間で抑えたものと思います。
イギリス政府ほんとすごい。
この結果を見るとやってることが正しいとしか思えない。
だからみんなちゃんとボリス首相から発表があればテレビの前に座り、言うことを聞いて、受け入れるんだと思います。
「ワクチンは危ないから俺は打たないぞ!」なんて言ってるイギリス人、見たことない。
あとは日本でのオリンピックを日本政府がどうするのか気になるところ。
やらないとオリンピック協会からお金が入ってこないので、今までかけたお金を取り戻すためにどうしてもやりたいのはわかるのですが、この時期に世界中から選手を招いてっていうのは心配です。
ただでさえワクチンが世界から遅れているんだから、ダッシュで打たないと。
イギリス政府だったらどうしていただろう?
たぶんすごく早い段階で、延期か中止をしていたと思います。
今回は中止して、その8年後にまわしてもらうとかするんじゃないでしょうか。IOCに交渉して、かかった資金を援助してもらうなりするはずです。
日本にはその交渉力がないのか、世界に足元を見られて馬鹿にされているのか。
自分の国だけに、情けない日本政府です。
新型コロナをやっつける我らがボリス首相。
国民のヒーローです。かっこいい💗
コメント