お客さん、お金払わないってよ
「もずくさん、お客さんが銀ダラの西京焼きのお金を払わないって言ってます」
「なんで?」
「値段が高すぎて、魚が小さかったって」
ウエイトレスのミホちゃんが、レシートの控えを手に持って、キッチンでバタバタと料理をしていた私に相談してきました。
銀ダラというのは、イギリスでは最高級の魚で、日本で言えば和牛のA5ランクのフィレ肉とかの位置付けです。
うちの店では£22(3千円ぐらい)で出してますが、だいたいロンドンの相場か、ちょっと安いぐらい。
高級食材なので値段が高めでボリューム少なめですが、それでもお客さんが食べたがり、よく注文が入る人気メニューです。
私は料理の手をとめて手を洗い、ミホちゃんからレシートの控えを受け取って客席に向かいます。
「どの人?」
「あの3人テーブルの、こっちを向いている方です。」
メガネをかけた60歳ぐらいのイギリス人のおっさん。
まあ、目つきが悪い。
あなたは悪役商会の方ですか、ってつっこみたくなるルックスでした。
レシートを手に、ずんずんとお客に向かっていく私。
レシートの総額は£190ちょっとなので、日本円で3人で3万円ぐらい。お酒もよく飲んだみたいで、客単価4000-5000円のうちのお店の平均から言うと、2倍ぐらいお金を使ってくれてます。
「いかがされましたか?」
と、普通に声をかけると、おっさん、少しのけぞり、なんだかちょっとビビった様子。
「銀ダラの西京焼き、すごく小さくて、3口くらいしかなかったんだ!£22もするのに!」
と、少し怒った口調で言いますが、目は泳いでいます。
正当なクレームというよりは、ウエイトレスへのいじめだな、と直感的に思いました。
「当店の銀ダラ西京焼きは一切れ120グラムです。魚は私が切りました」
「・・・俺は、ZUMAで西京焼きを食べたんだ」
「はい、ZUMAですね」
「・・・」
それで?という表情でじっと次の言葉を待ちましたが、おっさん、その後言葉が続きません。
ZUMA(ヅマ)というのは、ロンドンの一等地にある誰もが知っている高級和食レストランで、私も行ったことがあります。ZUMAの銀ダラは食べたことがないですが、おそらく大きさは同じぐらいで、値段はうちよりもずっと高いはずです。
おっさんはまだ黙っていました。
私は決して高圧的な態度をとっているわけではなく、いたって普通に接しましたが、いくら待ってもおっさんが何も言わなくなったので、言いたいことはそれだけだ、ということがわかりました。
では、クロージングに入らせていただきます。
「お客様、銀ダラにいくらお支払いされたいですか?」
おっさんは目をそらし、ペラペラとメニューをめくり、なんだか忘れましたが別のことを言い始めたので、
「お客様、当店の銀ダラの西京焼きは£22なのですが、お客様はいくらお支払いされたいですか?」と、もう一度同じことを聞いてみました。
おっさん、私の目を見て、2-3秒沈黙。
それから、
「10ポンド」と言ったので、
「わかりました、では£10で」と言って、ミホちゃんにレシートの控えを返しました。
ロンドンの高級和食店で釜飯を注文すると雑炊が出てくる過去記事
クレームのふりして、実はマウンティング
レストランでたくさん注文し、たくさんお金を払う状況を作り、支払う前にいちゃもんをつけてマウンティングしてくる、というタイプのお客さんがたまにいます。
うちのお店は育ちがいい人が多い住宅地の中にあるので、マナーの悪い方というのはめったいにいないのですが、言っても丸8年ぐらいやっているので、このパターンに5-6回ぐらい遭遇しました。
おそらくお客様に心の問題があるのだと思います。
飲食店側としては、たくさんお金を使ってもらうと、心理的になんとなくお客様に逆らってはいけないような、下手に出ないといけないような雰囲気になったりします。
そこにつけ込んで、弱い立場になったスタッフをいじめる、という感じです。
そして、このタイプの人は、自分がいじめる人といじめない人を、瞬時に嗅ぎ分けるぎ能力があります。
私も最初のうちは、その心理戦がよくわかってなくて、お客様の言いなりになって振り回されたり、理不尽ないちゃもんを気にして何日も傷ついたままになったりしていました。
ところが、同じことが何度も起こると、あ、これはあの時と同じパターンだ、と気づくようになります。
クレームのそもそもの目的がマウンティングの場合、まともに話を聞いて前向きに問題解決しようとしても、疲弊するだけで時間の無駄です。
なので、戦わず、へりくだらず、心を無にして作業を終わらせ、あとは思い出さないようにするのがいいのです。
こういうお客さんと「お客様は神様だから最後まで丁寧に接しよう」などと真っ当にやっていたら、遅かれ早かれ自分が壊れてしまいます。
こういう時は、自分ちの玄関の前に落ちていた犬のうんちを掃除するように、バケツに水をくんで、ザーッと流して、はい、コレで綺麗になりました!という感じでちょうどよいと思います。
参戦する他のテーブルのお客さんたち
おっさんに聞こえるように日本語で「バカヤロー!」と言い、ミホちゃんを応援してくれたお客様がいました。
おっさんたちの斜め向かいに座っていた、20代半ばのアメリカ人女子ふたり組でした。
おっさんはイギリス人なので、バカヤローが聞こえても意味はわかりません。
女の子たちは、わざわざ携帯でGoogle翻訳して英語から日本語を検索してくれたらしい。
そして帰り際、ミホちゃんに「私たちカリフォルニアから来たのよ!ここのお店、カリフォルニアのどこの日本食よりもおいしかったわ!あっちが悪いんだから絶対に気にしないで!また来週も来るから」と慰めてくれたとのこと。
😭
また、私が参上する前、ミホちゃんにおっさんがしつこくいちゃもんをつけてくるのに見かねた他のテーブルの30代のカップルお客様も、
「まあーここのお料理デリ〜シャス!!!どれもこれも、デリ〜シャスだわ!!」
とおっさんに聞こえるように大声で言って、いちゃもんをつけられている最中のミホちゃんをかばい、最後に£5(800円ぐらい)のチップをくれたとのことでした。
なんと心温まるストーリーではありませんか。。。😭
その日、キッチンで忙しそうな私にぎりぎりまで声をかけず、一人で戦おうとしてくれたミホちゃんには、そのチップ£5と、他のテーブルからのチップ£5に加え、私からのチップ£10を足して£20(3000円ぐらい)にし、「功労ボーナス」として臨時支給。
前日の雨の日にミホちゃんが「もずくさんの傘めっちゃかわいい!でも傘に£20は私には高い!でも欲しい〜!」と悶えていたので、ミホちゃんが欲しがっていたイギリス王室御用達のフルトンの傘でもゲットして、職場で起こった嫌なことを忘れ、良い思い出に変えてくれたら嬉しいです。
おっさんは、私の前では、ミホちゃんに対するものとはまったく違う態度をとったそうです。
ミホちゃんにはめちゃくちゃ態度がでかかったくせに、「戦闘態勢バリバリの店長」が出てきたらいきなり声が小さくなったと。
なんだよ、いくじなし。
まあ、飲食店というのは一般の人が誰でも利用できるお店なので、いろいろなタイプの方と接する機会があり、いちゃもんのようなクレームを100%避けて通ることはできません。
昨日はへんなお客さんが来て、ちょっとトラブルになったけど、他のお客さんたちも協力してくれたし、おっさんたちもかなりお金を使ってくれたので、まあ我慢代ってことで、いいよね!ということにしました。
ちなみに、そのおっさんは、お支払いが終わってからもテーブルに居座ってなかなか帰らず、なぜ自分が正しいのか、約10分間にわたって自分の正当性を同じテーブルの他の二人に力説していたとこのとです。
その後、帰ったのですが、自分の荷物の大きなリュックを忘れて置いていき、それを取りに5分後にもう一度戻ってきました。
ちょうどそのタイミングで私が客席に出て行ったので、ミホちゃんと二人で、満面の笑みをつくり、「ハーヴァ、グンナーイ!」とおもいっきり手を振り、明るく挨拶して送り出してあげました。
私たちと参戦してくれた他のお客さんの注目を集め、バツが悪そうに出ていくおっさん。
リュックを忘れて行ったのは、クレームをつけて店員に嫌がらせをしようと思ったのに、事務的に処理されて心が動揺したのだと思います。
よわむし〜😁
ということで、昨日のことは、昨日のこと。
これを踏み台にまた飲食店として成長させていただき、これからもがんばってお仕事を続けていきたいと思います。
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↑この記事についてGoogleから「性的な表現が含まれている」(?!)と怒られ、「どこがよ!」と憤慨している数日後のブログ
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